娘が産まれました2

出産のときの話。

 

先輩から「出産に立ち会って、奥さんの豹変ぶりとか、結構生々しいシーンがあったりで男がまいっちゃうみたいなことあるけど、そんなのこれ以上ないほど邪魔者扱いされるからね、気を付けて」というアドバイス。とある先輩なんか「あんたに何がわかるの!?」みたいに怒られたらしい。分娩室で。怖い。

そこで自分の立会時の目標を「人に迷惑をかけない」に設定した。出産というシーンでなければ、極めてアホくさい目標だ。

 

そして当日、夜中から朝まで奥さんに付き添ってみたけれど、夫ができることなんてビビるくらい何もない。女の人は偉大だし、男はイライラするほどに無力だ。だからこそ俺の立てた目標は間違っていなかった。迷惑をかけないことだけを心掛ける。

夜中の病棟で、奥さんのベッドの横について、あ、腰が痛いですか?このあたりをさするとよろしいでしょうか?お水飲みますか?と執事のような態度を取り続ける俺。いまんとこ、いいよー。迷惑かけてないよー、俺!

 

ただせっぱつまってきて、奥さんが本当に痛がってきたとき、腰をさするとかそんなもんで解決できる問題じゃない。いよいよもって俺、邪魔者になりそう!そんなときに導き出した俺のソリューション、「だいじょうぶ」を言い続ける。

 

激痛に耐える奥様に、「ほら、ひっ、ひっ、ふー」なんて呼吸を整えることなどできやしない。俺が逆の立場だったら「いまそれどころじゃねんだよ!」てなる。

「痛い時に効くツボがあってね、ここを、こう・・」みたいなの、超ウザいだろうし、空気変えようとして「う~ふ~ふ~ぼくドラえも~ん」なんてモノマネを披露したら、助産婦さんにもぶん殴られるかもしれない。「そもそも似てねぇし!」「お前のび太以下だわ!」くらいの。

 

そこで俺のソリューション、「だいじょうぶ」。呼吸とかいきみ方とか、そういうのはプロフェッショナルである助産婦さんに任せる!俺は常に、冷静に、不安がらず、狼狽せず、奥さんのそばで「だいじょうぶ」って言い続ける!

世界中のだいじょうぶを、この分娩室に集めたい。みんな、オラにちょっとずつ、だいじょうぶを分けてくれ!って気持ち。アホか!て思われるかもしれないけどね、まじでね、これしかできる事がないの男って。

 

ただ、日常生活ではあんまりこのメソッド使えないよ。課長がパチンコ行って金使いすぎたことがバレて、「だいじょうぶ」って奥さんに言い続けたらしいけど、「それはだいじょうぶじゃないでしょ」て至極まっとうな返しをされたらしい。うん、それは、だいじょうぶじゃないね。